近年、SNSやブログなどで「Webエンジニアが増えすぎている」「未経験者が多すぎて仕事がない」といった声が目立つようになりました。特にプログラミングスクール卒業者やキャリアチェンジ組の増加により、初級レベルのエンジニアが市場に溢れているという印象を持つ人も少なくありません。
しかし、これらの印象は本当に正しいのでしょうか?実際のデータをもとに、Webエンジニア市場の現状を読み解いていきましょう。
2024年11月時点でのエンジニア求人倍率は、特にAIやデータサイエンス分野で顕著に上昇しています。AIエンジニアの求人倍率は約4倍に達しており、これは過去数年の中で最も高い水準です。このような状況は、企業がより高度な技術を求めるようになっていることを示しています。
一方で、一般的なWebエンジニアの求人倍率も高水準を維持しています。特に都市部では求人倍率が高く、技術者の需要が急増しています。これらの地域では、特にIT企業やスタートアップが集まっており、競争が激化しています。
未経験からエンジニアを目指す人の増加も、業界の大きな変化の一つです。プログラミングスクールやオンライン学習の普及により、他業種からのキャリアチェンジが容易になりました。実際、レバレジーズ社が公開しているレバテックIT人材白書2024によれば、未経験エンジニアの採用状況について、約7割の企業が「採用中」または「検討中」と回答しています。
しかし、未経験者の急増により、初級レベルのエンジニアが市場に多く存在する一方で、実務経験や高度なスキルを持つ人材の需要は依然として高いままです。このギャップが、「エンジニアが増えすぎている」という印象を生んでいる可能性があります。
近年、Webエンジニア人口が急増した背景には、プログラミングスクールや学習サービスの台頭が大きく関係しています。特にコロナ禍以降、在宅時間の増加やキャリアの見直しが進み、社会人や学生が新たなスキルとしてプログラミングを学ぶケースが増加しました。
また、個人で稼ぐ手段として注目された「副業」や「フリーランス」という働き方も後押しとなり、「エンジニアになれば在宅で月収数十万円も夢ではない」といった情報がSNSを中心に広がりました。結果として、未経験からWebエンジニアを目指す人々が一気に増え、業界への参入者が急増する要因となったのです。
IT業界にはさまざまな職種がありますが、その中でも「Webエンジニア」は特に人気を集めています。理由のひとつは、比較的学習コストが低く、成果物が目に見える形で確認しやすい点にあります。
たとえば、HTMLやCSS、JavaScriptといったフロントエンドの技術は入門者向け教材も豊富で、個人でもWebサイトやアプリを作ることが可能です。この「作ってすぐに成果がわかる」性質が、学習のモチベーション維持につながり、初心者にとって魅力的な入り口となっています。
さらに、企業のWebサービス開発案件も豊富なため、スキルを活かして仕事を得る機会が多いのも、Web系が好まれる理由のひとつです。
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、リモートワークは多くの企業で定着しました。これにより、物理的な通勤にとらわれずに働ける職種として、Webエンジニアはさらに注目を集めました。
特にフリーランスや副業として活動する場合、Web開発の案件はリモート対応可能なものが多く、自宅で仕事を完結できる点が支持を集めています。SlackやGitHub、Zoomなどのツールを使った非同期・分散型の働き方が浸透した今、Webエンジニアは「場所を選ばない職業」の代表格となりつつあります。
こうした働き方の自由度の高さが、未経験者や他業種からのキャリアチェンジを後押しし、エンジニア人口の増加に拍車をかけています。
SNS上では「エンジニアが多すぎて仕事が取れない」という声が散見されますが、実際の企業ニーズと照らし合わせると、その背景には明確なギャップがあります。多くの企業が求めているのは「即戦力としてプロダクトを任せられるエンジニア」であり、未経験や初学者レベルのスキルでは満たしきれないのが現状です。
とくにスタートアップや中堅企業では、少人数でスピーディに開発を進める必要があるため、ドキュメントレスな開発環境やスピード感のある仕様変更に対応できる柔軟性も求められます。コードが書けるだけではなく、実務的なチーム開発や要件定義、技術選定の経験なども重視される傾向にあります。
つまり、「エンジニアが飽和している」と感じられるのは、求職者側と企業側の期待値が大きくズレていることに起因しています。
人材需要の濃淡は、企業規模やフェーズによっても異なります。
スタートアップでは「自律的に動けるフルスタックエンジニア」や「プロダクト志向の高いエンジニア」が求められがちです。一方で、大企業やエンタープライズでは、保守・運用が重視される案件や、レガシーシステムの刷新など、特定領域に特化したスペシャリストへのニーズも根強く存在しています。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の波により、非IT企業でも自社開発を進める動きが増えており、それに伴って「エンジニアを育てながら採用したい」と考える企業も増加傾向にあります。
業界全体で見ると、「即戦力が足りない」「特定スキルに偏りがある」という声が多く、まだまだ供給が追いついていない領域も多いのが実情です。
Webエンジニアの中でも、下記のようなスキルセットを持つ人材は現在も強く求められています。
このように、単に「Webエンジニアが多すぎる」という単純な構図ではなく、「求められるスキルセットを持った人材はまだまだ不足している」というのが、業界のリアルな声です。
今後のWebエンジニア市場では、初級者レベルのスキルだけでは差別化が難しくなっていくのは間違いありません。生き残っていくためには、「他のエンジニアと何が違うか」を明確にできるスキルセットの獲得が不可欠です。
たとえば、以下のようなスキルは評価されやすい傾向があります。
こうした“強み”を1つでも明確に持っていることが、今後のキャリアにおける大きな武器となります。
Webエンジニアといっても、その職域は多岐にわたります。あえてフロントエンドやバックエンドから離れ、関連分野にスライドしていくのもキャリア戦略のひとつです。
たとえば以下のような分野は、今後さらに需要が高まると予測されます。
このような周辺領域にスキルを拡張することで、市場価値を高めつつ長期的なキャリアを築くことができます。
技術力を土台にしながら、エンジニアとしてのキャリアを「個人プレイヤー」から「組織を支える立場」へとシフトすることも重要な選択肢です。
以下のようなポジションは、実装だけでなくマネジメントや戦略的視点が求められるため、一定の経験と信頼が前提になります。
「手を動かす」だけでなく、「どう組織で技術を活かすか」を考えられるエンジニアには、今後も大きな需要があります。
未経験からWebエンジニアを目指す場合、まず最初の分岐点になるのが「どう学ぶか」です。現在は多くのプログラミングスクールやオンライン講座が存在しており、それぞれに特徴があります。
しかし、「転職保証」や「短期集中で稼げる」といったキャッチコピーだけに惹かれて安易に選ぶのは危険です。自分が将来どういったキャリアを築きたいのか(たとえば、Webアプリ開発者なのか、フロント特化なのか、インフラ寄りなのか)を明確にしたうえで、学習内容がそれに合っているかを慎重に判断する必要があります。
また、カリキュラムに「チーム開発」「Git/GitHub」「クラウド環境の扱い」など実務に近いスキルが含まれているかも重要なチェックポイントです。
SNSや広告では「エンジニアは簡単に高収入」「在宅で月収50万円」といった言葉が飛び交っていますが、こうした情報を鵜呑みにしてしまうと、現実とのギャップに苦しむことになります。
実際のところ、未経験者が市場価値の高い案件を任されるには、基礎スキルに加え、アウトプット経験やポートフォリオ、業務レベルの理解が必要です。最初は実務経験を積むためにアルバイトや業務委託からスタートするケースも多く、地道な努力と継続的な学習が欠かせません。
「楽して稼げる職業」ではなく、「自走力と継続力が求められる職業」として捉えることが重要です。
未経験者が最初の一歩を踏み出す際に意識したいのは、「成長環境に身を置くこと」です。年収や条件だけで就職先を選ぶのではなく、コードレビューを受けられる環境か、先輩エンジニアから学べる機会があるか、といった点が将来的なスキルアップに直結します。
また、転職活動を始める前に、ポートフォリオを複数作成することや、QiitaやGitHubでの発信、技術コミュニティへの参加など、アウトプットを積極的に行うことも大きな武器になります。
未経験からのスタートであっても、主体的に学び、技術と実績を積み重ねることで、確実にチャンスを掴むことができます。
ここ数年でWebエンジニアを目指す人は急増し、初学者・未経験者が業界に数多く参入してきました。その結果、「エンジニアが飽和している」という声も聞かれるようになっています。
しかし、業界全体で見れば、本当に足りていないのは「実務で価値を発揮できる人材」であり、求人倍率や技術需要の水準は今もなお高い状態です。つまり、単なる数の増加がそのまま飽和を意味するわけではなく、スキルと経験に応じた"需要の偏り"が問題の本質だと言えるでしょう。
これからWebエンジニアとして活躍し続けるためには、周囲と同じレールを走るのではなく、自分だけの強みや軸を明確にし、継続的に学び、成長し続ける姿勢が求められます。
「増えすぎた中でどう目立つか」ではなく、「どんな価値を提供できるか」という視点を持つことこそが、今後のキャリア形成の鍵となるはずです。
これからWebエンジニアを目指す方や、キャリアに不安を感じている方にとって、今はまさに「戦略的に動くべきタイミング」です。必要なのは、“とりあえず目指す”のではなく、“どこを目指すか”を明確にすること。
その第一歩として、未経験からのステップを具体的に整理した以下の記事もあわせてご覧ください。現役エンジニアが監修し、必要なスキル・学習法・実務への入り方を体系的にまとめています。
【現役エンジニア監修】未経験からWebエンジニアになるための最短ロードマップ完全解説
エンジニアを取り巻く環境が変化し続ける今、情報を味方にし、確かな一歩を踏み出していきましょう。Ping Tech Blogはこれからも、あなたのキャリアの味方であり続けます。